【書評】貴志祐介『新世界より』講談社文庫の下を読んだら評価はBからB+へ
本の評価
貴志祐介『新世界より』下 講談社文庫 ¥790(税別)
評価:B+
どんな人に向いている本か。
主人公である人間たちには呪術があるため、未知な力が好きな方には非常に向いています。
後は、ホラーが好きな人です。幽霊が出てくるような怖さではなく、人間の残虐性を見ることが好きな方は、おそらくものすごくワクワクしながら読めるでしょう。
なぜなら、グロテスクな描写が非常に上手な作者だからです。
どのような本かぶっちゃける
下記のリンクですでに、「新世界より」のあらすじは書いているのですが、当時は下を読み始めて間もない頃でしたので、改めて書きたいと思います。
呪力(魔法)を持った人間が、世界を支配していることが設定の本書。
そのため内容としては、主人公がどのように呪力を使えるようになったのか、どういう呪力があるのかというファンタジー要素も非常に含まれています。
しかし、作者である貴志祐介はホラーを書くことに関しては天才的なため、ふわふわしたファンタジーだけでは終わりません。
呪力の悪影響で、生態系にどれだけの損害を出しているのか。人間が呪力を持つと、慢心し驕ってしまい、自分が神だと錯覚する等のマイナス要素が非常にリアリティにえがかれています。
呪術を持った人間は、あらかじめ攻撃抑制と愧死機構というもので洗脳をされています。これは、他の人間を殺そうとするとストップがかかったり、最悪殺してしまった場合は、無意識に自分に呪術を与えて自殺してしまうというシステムです。
これによって、呪術を持った人間がむやみに暴走しないようにコントロールをされているのですが、「下」では、何かのはずみで攻撃抑制と愧死機構が無くなってしまった人間が町の人々をバケネズミとともに殺戮しまくり未曾有の混乱を引き起こすという話になります。
「上」を読むだけだと、この世界は非常にふわふわしてんなという感想を抱くのですが、途中から描写が禍々しくなります。すると、いつの間にか物語が急降下していき、「下」でのオチでは、すべての伏線が回収され、悪鬼とバケギツネが殺戮しまくっているシーンの違和感がすっきりと無くなっていきます。
見どころ
主人公の言動や行動が女の子女の子していて、めちゃくちゃイライラする
主人公である早希は、幼い頃よりなぜ自分の世界がこんなにふわふわしているのかというトップシークレットを知ってしまいます。
捲き起こる数々の事件で、愛する人の友人の死や、トップシークレットを知ってしまったため、殺されかけたりと、常人では再起不能になりそうなことでも比較的ケロッとしています。
ここまでは、こういう性格の人もいると納得できるのですが、読み進めていくと全く心が擦れていかないことがわかります。
人間はある程度の苦労や裏切りに合うと、様々なことを諦めたり、理解をしてくるかと思いますが、全くしていないのです。簡単に言うと、人間臭さが足りない感じです。
読みながら「いや、お前のせいで周りの人がピンチになってるんや」とツッコミを入れたくなると思います。
主人公の心理描写が長々書かれているシーンを読み飛ばしたのも僕だけじゃないはず。
何か絶対罠があるやんと思わせることが上手
どれだけ難解な状態をクリアしたとしても、違和感を残すという描写が非常に上手く、常にモヤモヤできます。
それは、主人公がいつまでも女の子でいるためかもしれませんが、ところどころに「何かがおかしい」や「頭の片隅に何か引っかかっていた」等のセリフがあり、最後のオチまではすっきりとした世界はやってきません。
そのため、最後のオチでは、しっかりと今までの違和感を回収してくれるので、やっぱりそうだったかという気持ちになれます。
そういう部分だと、犯人を見つける推理小説のような面も持っているかもしれません。
まとめ
比較的単純な設定で、ファンタジーの要素もSFの要素もホラーの要素も織り交ぜて長編を書くことは恐ろしい才能だと思います。
幸せなまどろみの世界を、地獄へ変える天才が書いた集大成のような本になってい流ため、悪の教典を読んでみた人は、是非チャレンジしてください。