【書評】ヤン・ソギル『闇の子供たち』評価B− タイの売春児とときどき人身売買。

本の評価

ヤン・ソギル闇の子供たち』幻冬者文庫

¥686(税別)

評価 B−

闇の子供たち (幻冬舎文庫)

闇の子供たち (幻冬舎文庫)

 

 どんな本かぶっちゃける

タイの山岳地帯は貧困だった。マフィアなどの国に危害を加えるものが潜んでいるという噂もあるため、政府はこの地域の者がバンコクに入ることを禁止したため、仕事が全くなかったのである。

当然、仕事がないと金がないため、テレビや冷蔵庫という者さえ買えず、明日の食事さえままならない状態だった。

センラーはこの場所で生まれ、8歳になる。姉はすでに、売られていた。

バンコクからきた者に、親はセンラーを1万2千バーツで売った。これは日本円で約3万6千円である。

センラーが今後待ち受けている人生は、ペドファイルと呼ばれる幼児愛者のための売春児となるのだ。まだ初潮もない少女へ、大人の性を学ばせるには、圧倒的な暴力と飢えしかない。

センラーはタバコの火を押し付けられ、逆らえないという恐怖や、痛みを訴えると食事をもらえないという地獄の中で生活を続けないといけなかった。それは、エイズの恐怖とともに。

社会福祉センターの大人たちは売春児の救出のために奮闘をするが、国の一大ビジネスのため、警察ですら敵になった。

一方日本では、一人の資産家の子供が腎臓移植を受けないと死んでしまうという。

アメリカでの移植を受けるまで待つことはできなかった。

資産家の親は、なんとか子供を救うため、裏ルートからタイでの腎臓移植を決めた。

しかしそれは、一人の売春児の命を終わらせ、一人の日本人の子供を救うことだった。

どんな人に向いているか

石井光太さんの本を読んだことがある人は、すんなり読むことができるかと思います。

僕は昔、石井光太さんのレンタルチャイルドを読んで売春児という存在を知ったため、あまりショックは無く読むことができました。

しかし、この本は、石井光太さんのようなルポでは無く、小説になっているため、性行為や教育のための暴力をしているシーンが生々しくえがかれています。

苦手な人も多いと思いますが、絶対に知っておかないといけない話だと思いますので、世界の貧困についてよく知らない人にはおすすめです。

 

見どころ

小説としてのワクワクはないが、売春児の待遇や人間の底知れない闇がわかる

ぶっちゃけ、小説としては、そこまで面白くないです。

小説というものは、音楽と一緒で、イントロがあって、サビがあって、最後にまとめ(オチ)があると思いますので、そういう流れではありません。

この本に書いてるのは、ヤン・ソギルの怒りのような懸命な訴えが書かれています。

貧困層の親が、子供を売り、それをどういう風に商売道具にするのか、そしてどうなってしまうのかがわかります。読んでいくとどうしようもない貧困の現実と、いつも犠牲になるのは子供と女性という事実に、なすすべが無く唖然としていきます。

最後にある解説だけでも読んでほしい

最後にある永江朗さんの解説が非常にいいので読んでほしい。この本をしっかりとまとめられているから。

アジアの現実は他人事ではない。それは日本国内における外国人の現実が他人事ではないのと同じように。幼児買春も、児童ポルノも臓器売買も、政治腐敗も、貧困も、抑圧も、全てが私たち、いや私自身の問題なのだ。

まとめ

久しぶりに精神的に疲れる本を読みました。

この売春児は絶対になくならないと思うんですよね。でも、知らなくてもいいということでもないと思う。最後の章では売春児の命と日本人の命が天秤にかけられます。道徳上では、同じ命の重さですが、現実では、金の重さが上乗せされてしまいます。

自分の子供の命を救いたいと思っている親に、あなたの子供を救うために、タイの子供が一人死ぬんですという訴えをしたところで、どうすることもできないのである。

この、底知れない闇と、貧困というものを作り出している政府の罪に憤りを感じる1冊です。